大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和51年(わ)728号 判決

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

被告人から押収してある入会保証金預託証書一通(昭和五一年押第二五九号の二三)および腕時計一個(同号の二一)をそれぞれ没収し、金二六七万八、六〇〇円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四六年八月一日から昭和五〇年七月三一日まで京都府城陽市(昭和四七年五月二日以前は、城陽町)企画事業部(同年一一月一日付事業部、昭和四九年八月一日付建設部とそれぞれ名称変更)都市計画課長として、同市発注にかかる同課所管の都市計画、下水道、街路、公園等の各事業および都市排水施設の改修等の工事について指名業者の選定および工事の施行に関する指導、監督、検査並びに同年七月三一日までは都市計画法、同市開発指導要綱等に基づく開発に関する許可申請等の手続および宅地造成事業等の指導の職務を担当していたものであるが、

第一  建設業大信建設株式会社代表取締役吉岡秋男から、同市発注にかかる同課所管の都市排水施設等の工事の指名業者の選定並びに同工事の監督、検査等について好意ある取り計らいを受けたことに対する謝礼および将来も職務上便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、同人の出捐により、大津カントリークラブ個人会員権代金二〇〇万円、名義書替料金三〇万円をそれぞれ支払い、よつて昭和四八年六月一二日大阪市東区京橋三丁目一番四号株式会社大和において右カントリークラブの個人会員として登録を受け、その後同月一五日ころ、城陽市大字平川小字大将軍二六番地の一一被告人方において、右大和職員の発送にかかる右大和発行の入会保証金預託証書一通(額面金額五六万円、昭和五一年押第二五九号の二三)の供与を受け

第二(一)  同年一〇月三日ころ、前記被告人方において、土木工事業山田組代表者山田仁から、同市発注にかかる同課所管の都市排水施設改修等の工事の指名業者の選定並びに同工事の監督、検査等について好意ある取り計らいを受けたことに対する謝礼および将来も職務上便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、現金一〇万円の供与を受け

(二)  昭和四九年二月一〇日ころ、右被告人方において、右山田仁から、右と同様の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら腕時計一個(時価六万二、〇〇〇円相当、昭和五一年押第二五九号の二一)の供与を受け

(三)  同年四月二二日ころ、同市大字久世小字里の西通称梅の里団地東側付近に駐車中の普通乗用自動車内において右山田仁から、右と同様の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、現金二〇万円の供与を受け

(四)  同年一二月二一日ころ、同市大字平川小字野原地内久津川児童公園付近に駐車中の普通乗用自動車内において、右山田仁から、同市発注にかかる同課所管の公園新設等の工事の指名業者の選定並びに同工事の監督、検査等について好意ある取り計らいを受けたことに対する謝礼および将来も職務上便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、現金二〇万円の供与を受け

第三(一)  昭和四八年一二月下旬ころ、前記被告人方において、建築の設計、施工および宅地販売等を業とする株式会社あめりか屋営業部長大前順一から、同会社が同市内で予定する開発に関する許可申請等の手続の指導について好意ある取り計らいを受けたことに対する謝礼および将来も職務上便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、株式会社高島屋の発行する額面五〇〇円のギフトカード二〇〇枚の供与を受け

(二)  昭和四九年一〇月七日ころ、京都市左京区下鴨松原町二〇番地右あめりか屋本店付近路上において、右大前順一から、右記載の開発に関する許可申請等の手続の指導について好意ある取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、ゴルフクラブ五本(時価二〇万円相当)の供与を受け

第四(一)  昭和四八年一二月下旬ころ、前記被告人方において、土木工事請負業栄工務店代表者西島栄種から、同城陽市発注にかかる同課所管の都市排水施設工事等の指名業者の選定並びに同工事の監督、検査等について好意ある取り計らいを受けたことに対する謝礼および将来も職務上便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、株式会社大丸の発行する額面五〇〇円の商品券(シヨツピングボンド)一〇〇枚の供与を受け

(二)  昭和四九年一二月下旬ころ、前記被告人方において、右西島栄種から、右と同様の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、同人の妻昭代を介して株式会社大丸の発行する額面五〇〇円の商品券(シヨツピングボンド)一〇〇枚の供与を受け

第五  昭和五〇年七月二六日大阪府豊中市螢池西町三丁目五五五番地大阪国際空港国際線ロビーにおいて、土木建築業共進建設株式会社代表取締役吉岡武夫こと白龍先から、同城陽市発注にかかる同課所管の都市排水施設改修等の工事の指名業者の選定並びに同工事の監督、検査等について好意ある取り計らいを受けたことに対する謝礼および将来も職務上便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、日本航空株式会社の発行する右空港から韓国釜山国際空港までの往復航空券一通(三万八、六〇〇円相当)の供与を受け

もつてそれぞれ自己の職務に関し賄賂を収受したものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、刑法一九七条一項前段にそれぞれ該当し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予することとし、なお判示第一の犯行により収受した賄賂の性質について鑑みるに、前掲当該各証拠によれば、被告人において賄賂として収受したものは、前記株式会社大和の発行する単なる紙片としての入会保証金預託証書(昭和五一年押第二五九号の二三)に留らず、同会社の所有し且つ株式会社日本平の経営する大津カントリークラブのゴルフ場およびその付属施設を優先的且つ継続的に利用し得る権利および年会費等を納入すべき義務をも包含するところの同クラブ会員としての地位(そのうちには、右地位に基き実際に同クラブ施設等を利用した利益を含む)であるといわなければならない。没収、追徴の制度の趣旨は、授受された賄賂の目的物またはその価額を常に国庫に帰属せしめて、収賄者をして犯罪による不法な利益を保有しまたは回復するのを妨げることを目的とするものであること明らかである。ところで、被告人の収受した右会員たる地位が、右預託証書に包摂して化体されていれば、したがつて同証書の没収をもつて、会員権にすべて効力を及ぼし得るものであれば、同証書を没収することによつて、収賄者の利益をすべて奪うに等しいこととなり、右制度の趣旨を満たすものであるということができる。前掲当該各証拠によれば、預託証書ないし会員権の売買は自由であり、会員権の移転には通常必らず預託証書の占有の移転を伴い、また退会の際に入会保証金の返還を請求するには、同証書の必要であることは認め得るが、一方、右会員権は、会員たらむとする者が、右株式会社大和に対して入会申込書および会員権譲渡承認請求書等を提出して入会を申込み、右クラブ理事会の承認を経たうえ、同理事会に対して前会員(譲渡会員)所有の預託証書、会員証および名義書替料を交付することによつて同クラブに登録されてはじめて譲り受けられるものである。右によれば、同証書は、その流通性は制限され、しかも未だ会員たる地位を包摂化体しているとは言えないから、同証書の没収をもつて収賄者の受けた利益をすべて国家に帰属せしめ得るものではないといわなければならない。一方、右制度目的を満すために、できる限り、賄賂として収受したもの自体を没収すべきこともまた法の予想するところである。成程会員たる地位そのものは、その性質上没収することができないとはいうものの、会員が退会するとき、預託証書をもつて入会保証金の返還請求をすることができるのであるから、その入会保証金返還請求の権原は会員たる地位にあるとはいえ、右預託証書が、少くとも会員権の一部としての保証金返還請求権を化体するものと言えないでもなく、そのうえ、預託証書をなお収賄者に保有せしめれば、その自由譲渡性或は登録された地位を利用して、収賄者をして更に利得せしめる余地がないでもないこと等に鑑みれば、右預託証書を国家に帰属せしめて、それに基き相応の措置を施すことこそ同制度の目的を全うするところである。その余の会員たる地位は、前記のとおり、その性質上没収することができないから、その価額を追徴すべきであるが、その価額は、収受時の会員権の譲受価額金二三〇万円から、右証書額面金額(入会保証金額)五六万円を控除した金一七四万円をもつて相当とする。

以上のとおり、押収してある前記入会保証金預託証書一通(昭和五一年押第二五九号の二三)は判示第一の、また同腕時計一個(同号の二一)は判示第二(二)の各犯行により収受した賄賂であるから、同法一九七条の五前段によりそれぞれ没収し、右金一七四万円および被告人が判示第二(一)、(三)、(四)、第三(一)、(二)、第四(一)、(二)、第五の各犯行により収受した賄賂(その価額合計九三万八、六〇〇円)はいずれも費消或は譲渡により没収することができないので、同条後段によりその価額合計金二六七万八、六〇〇円を被告人から追徴することとする。

よつて主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例